いつかウェディングベル

加奈子の暗く落ち込んだ表情が頭から離れず、美薗さんとの商談中にも関わらず加奈子ばかり考えていた。



「聞いてます? 柿崎専務?」


「あ、すまない。どこまで話が進んでいたかな?」



美薗さんは溜息を吐くとバッグから煙草を取り出した。


テーブルの隅に置いていた灰皿を彼女の前に置くと、彼女は足を組み直して美味しそうに煙草を吸っていた。




「あなたは煙草は吸わないの?」


「妻が嫌いますし子どもたちもいるので。」


「優しい旦那様だこと。羨ましいわね奥様が。」


「あなたの婚約者も素晴らしい方だと思っていますが。違いますか?」



美薗さんには婚約者がいる。企業ならではの政略結婚だが、それでも相手の人は人間的にも素晴らしい人だと聞いている。


まだ一緒に仕事はしたことはないが、社交界では常連の人で何度も見かけたことはあるし少しは話をしたこともある。


友好関係はないが悪い感じの人ではなかった。



「そうね。素晴らしい人かもしれないわね。経営手腕は文句なし。きっと我が社は繁栄するわね。」


「そうではなく美薗さんが幸せにならなければ結婚の意味はないでしょう?」


「私達みたいな立場の者が恋愛結婚など出来る訳ないのよ。あなたは特別よ。」



俺も政略結婚が待っていた。だから、加奈子と別れ婚約者との結婚に前向きになって考えた。


柿崎家の長男としての責任だと思っていたから。


けれど、俺は婚約を破棄し加奈子と結婚した。周りが何を言おうが俺はこの結婚にとても満足している。


俺が婚約を破棄して好きな女と結婚したから会社が傾いたなどとは言わせない。


加奈子も業績アップの為にかなり貢献しているのは違いないんだ。



「私にも婚約者はいましたよ。政略結婚の・・・」


「知ってるわよ」



美薗さんは大きく息を吸うと煙草の煙を俺に吹きかけた。

その煙に思わず咳き込んでしまった。



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