いつかウェディングベル

「最初、私の父にJQ(株)の専務と縁談を組んで欲しいって頼んだの。残念ながらあなたは他の女と婚約したから諦めたわ。」



美薗さんが俺との縁談を望んだ? 

何故、そんなことを今頃になって話をするのか俺には美薗さんが何を考え何を悩んでいるのか分からずにいた。



「そしたらいつの間にか婚約者とは違う女と結婚してるし子どもも二人もいるなんて驚いたわよ。」


「妻とは元々恋人関係にあって私が彼女を離せなかったんですよ。」


「素敵ね。奥さんを愛しているのね。」


「ええ」


「三人目のお子さんかしら?」


「はい。子どもは可愛いですよ。あなたも結婚したら子どもを持たれるといい。きっと美薗さんに似て可愛い子でしょう。」



美薗さんは綺麗な顔立ちの人だし、育ちが良い割にはとても心根の優しい人だ。人を蔑むような意地の悪いところも見当たらない素敵な女性だと思っている。


きっと子どもには良い母親になるだろうと俺はそう思っている。



「私も好きな人と結婚して幸せな家庭を持ちたいって思うようになったのよ。あなたの影響でね。」



俺と加奈子の結婚がこの人に影響を与えていたとは意外なセリフだった。


普通は俺達のような結婚は許されることはない。


愛だの恋だの言えないのが俺達の様な事業をしている親を持つ立場の者の定めだ。


もしかしたら美薗さんにも好きな人がいるのだろうか? そうなれば政略結婚はかなり辛いものになる。


その気持ちは痛いほどに分かる。加奈子を諦めた時がそうだった。


体の一部を引き裂かれるほどに苦しかった。



「私ね、あの頃は透さんに惹かれていたのよ。信じる?」


「光栄ですね、そう言って頂けると。」


「あら、信じていないの? 本当に好きだったのよ。」



美薗さんは煙草を灰皿に置くと俺の手を握り締めた。そして、俺の左手薬指にはめられている指輪を見つめていた。


その瞳がやけに悲しそうで俺は美薗さんの手を払う事ができなかった。



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