いつかウェディングベル
「何かあったんですか?」
「あら、あなたが私と結婚してくれるの? 子どもがいても構わなくてよ。」
「残念ながら妻が私を離さないでしょうね。」
「その気もないくせに。」
美薗さんは俺の手を離すと自分の左手におさまっている婚約指輪を眺めていた。
それを頭上に掲げて見ていたが指輪を外してテーブルの上に置いた。
俺はギョッとしてその指輪をどうするのか黙って美薗さんを見ていた。
しばらく沈黙が続いたが美薗さんは外した婚約指輪をまた左手薬指にはめた。
それを見て俺はホッと胸を撫で下ろしていた。
「外せないのよね。というより、外したくないの。」
「彼を気に入っているから?」
「ええ、そうよ。政略結婚なのに彼に夢中なの。なのに・・・・」
美薗さんはそこで言葉を詰まらせた。
彼女を見ると目に涙を浮かべていた。その涙が何を意味するのか何となく分かってきた。
俺と加奈子の結婚に影響を受けた彼女はきっと、婚約者へ好意を持つようになったことで愛のある結婚をしたくなったのだ。
形式ばった結婚ではなく妻として愛して欲しいのだろう。
「彼にはそれを伝えましたか?」
美薗さんは首を振った。きっと、政略結婚には愛は必要ないと思っているからだ。
当然、夫婦としてお互いを尊重しながら生きていくだろうが男女の愛は芽生えないだろう。
子どもを授かり家族としての愛情は生まれるかもしれないが男女の愛はそれでも望めないのだろう。
婚約者を愛してしまったのに、子どもを授かり家族として夫婦として仲睦まじく過ごしていても愛情のない生活に苦しむことになるのだと美薗さんは嘆いているのだろう。
「それで、俺にして欲しいことは何なのですか? 」
美薗さんは俺の顔を見つめて一滴の涙を流した。