コンプレックス
「あぁ、いや。なんでもない」
はは、
吃驚した。思っていたことが口に出てた?それとも心を読まれた?偶々?もう海への恐怖のドキドキなのか、心吏に対してのドキドキなのか解らない。「戻ろっか?」心吏はあどけなく笑っていた。あたしはその笑みさえ怖くて、不安だった。
「うん、心吏、煙草」
「は、お前依存すんのはえーな」
もう兎に角何でも良いから、あたしを落ち着かせて欲しい。この不安を拭って欲しい。荒波に浚われそうだ。「ほら、やるよ」手渡されたのは細い奴じゃなくて、少し潰れた箱。赤い見知った銘柄に心が踊った。
「いいの?全部?」
「おぅ。ライターも入ってるからな」
慣れない煙草を咥えるあたしは、端から見たらやっぱりぎこちないだろうが、心吏はもう笑わなかった。「大切にしろよ?」煙草の吸いすぎで少し掠れた心吏の声に鼓動が速くなったのか、煙を吸い込んだから速くなったのか。
あたしには解らなかった。