みんなの冷蔵庫(仮)1
「ア・ソ・コ! 股間よ股間」


野崎さんは真顔でそう言い、足を組み直した。


「そしたら彼女が来ちゃって追い返されちゃったんだよね。残念」


一時騒然となった車内は、また、静まり返る。

私は放心状態で野崎さんの横顔を穴が開くほど見つめた。

多分、シグマと京極が私を気遣う視線を向けている。
なんとなく気付いているけど、見れなかった。


「お前……」


京極がかすれたような声を漏らすと、佐田さんがまた苦しそうに咳込んだ。


「いや、いきなり抱き着かれたんですよ! 触るって、もう本当ちょっとなんです、ちょっと!」


時々裏返りながら必死に説明する佐田さんの声が、私の中を吹き抜けた。


「いや……そうじゃなくて、彼女……彼女いたんだ?」


ズキン
痛い。

さっき私の胸を引っ掻いていった言葉。

もう一度私を傷付ける。


「いますよ」


佐田さんがあっさり返事をして、車はまた動き出す。


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