敏腕社長に拾われました。
「ちょ、ちょっと詩織さん! そんなに引っ張らないでください。歩きにくいですよ」
「何言ってるの。あなた若いんだから、そんなこと言ってちゃダメよ」
詩織さんは振り向くと、腕を掴んでない方の手で長い髪をかき上げ涼しげに笑ってみせた。
いやいや、これだけ強く引っ張られれば、若くても歩けませんよ!
と言う間も与えてもらえず、されるがままに連れられていく。
「はぁ……」
諦めてそのまま歩いて行くと、着いたのはレストランの奥にある個室。詩織さんは勝手知ったる我が家のようにドアを開けて中へ入ると、「ここがこの部屋の特等席なのよ」と私を窓際の景色がよく見える席に座らせた。
目線を窓の外へ向けると、天気のいい今日は甲府盆地が綺麗に広がっているのが見える。
「あれは富士山よ」
詩織さんが指差す方を見る。
「ホントだぁ」
甲府盆地のその先に悠大な姿を見つけると、窓にへばりつくように景色を眺めた。
こんな素敵な景色、虎之助と一緒に見たかったなぁ……。
ふと頭の中に虎之助の顔を浮かんで、顔に笑みが溢れる。
「虎之助さんが……」
「え?」
詩織さんの声に振り向くと、さっきまでとは正反対なさみしげな笑顔がそこにあった。
「虎之助さんがあなたを選んだわけが、今なら分かる気がするわ」