敏腕社長に拾われました。

「入社早々、目を腫らして出勤してくる女なんて最低だよね」

小さな声で独り言をいうと、うつむき加減に最寄りの駅まで歩く。

化粧はしたけれど、泣き腫らした目だけはどうすることも出来なかった。

「虎之助のやつ……」

思い出したくないのに思い出してしまい、ひとり怒り復活。

洗面所に駆け込んだ後すぐに虎之助も来て、「智乃」と洗面所のドアを開けようとしたけれど。私の「開けないで! 顔も見たくない」の言葉に、さすがの虎之助もその後は静かになってしまった。

あたりまえだよね。あんなヒドいことされたんだよ? 顔なんてしばらく見たくない。

押し飛ばしたことは悪いと思ってる。思ってるけど、その原因を作ったのだって虎之助自信じゃない!

「何もかも全部、虎之助が悪い!!」

思わず気持ちが声となって出てしまい、慌ててあたりをキョロキョロ見渡す。

良かった、誰もいない。

でもホッと安心したのもつかの間、私の目線に見慣れた車が入ってきて、体に緊張が走る。

「虎之助……」

クルッと踵を返すと、駅に向かって歩き出す。

会社に直接向かうなら、この道は通らないはず。ということは、私を追ってきた可能性大。

捕まってなるものかとどれだけ早足で歩いても、車のスピードには敵うはずもなく。車の音が近づいてきてあっという間に私を追い越すと、行く手を塞ぐように車は停まった。



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