冷徹なカレは溺甘オオカミ
「……はあ」



ひやりと冷たい鉄製の手すりを掴んで、わたしは大きく息を吐いた。

これは、感嘆のため息だ。先ほどのレストランで堪能したイベリコ豚の生ハムやらオマール海老やら牛フィレ肉やらは信じられないくらいおいしかったし、印南くんが追加で注文してくれたワインはほどよい甘さとフルーティさがやさしく確実に身体に染み渡って、今現在もわたしをとてもいい気分にさせてくれている。


……夜景、綺麗だなー。明るいうちに見てもただ無機質なビルが並んでるだけなのに、どうして夜になったとたんこんなに綺麗に見えるんだろ。

視界いっぱいに広がる暗闇の中に浮かぶネオンたちをぼんやり眺めていると、すぐ後ろから足音が聞こえた。



「柴咲さん、足元気をつけてください」



後を追ってデッキへと出てきた印南くんが、わたしの左隣りに並びながらそう言った。

思わず、ムッとくちびるをとがらせる。



「印南くんて、たまにわたしのこと子ども扱いするよね」

「子ども扱いはしてません。じゃなきゃあんないやらしくてオトナなことは」

「ハイハイハイハイもういいです!」



またもや下ネタ発言を投下しかけた彼の言葉をぶった斬り、ぐいぐい手のひらで右頬を押してその整った顔を背けさせた。

ほんとにもう、なんでこう恥ずかしげもなくさらっと下ネタぶっこめるんだか! これだから最近の若者は!


一応自分と2歳しか違わないという事実は棚に上げ、アルコールに侵食された頭でそんなことを思う。

風になびく髪を片手でおさえながら、わたしは眼前に広がるきらびやかな夜景へと目を向けた。
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