冷徹なカレは溺甘オオカミ
まわりには、わたしたちと同じようにディナーを終えてデッキからの景色を楽しんでいるカップルが何組もいる。

彼らとわたしたちの決定的な違いは、こんなところで並んで立ってはいても、実は本当の恋人同士ではないという点だ。

船上で受ける11月の夜風は、なかなか冷たい。というか、わりと本気で寒い。

だけども気分が高揚してほてった身体を冷ますには、これくらいがちょうどいいのかもしれない。



「コース料理、すごくおいしかったね。わたしオマール海老って初めて食べた」

「俺もです。自分の中のおいしい海老ランキングが更新されました」



なにそれ、とつい吹き出して、わたしは隣りの彼へ目を向けた。



「でもまあ、いきなりの『ハッピーバースデー』には、さすがに驚いたなあ」



思わず苦笑しながら、先ほどのレストランでの出来事を思い出す。

もともとは、矢野さんが彼女の誕生日にサプライズをしようと予約していた、今回のディナークルーズ。

矢野さんはコースの最後に、レストランスタッフがバースデーケーキを持ってくるという演出までお願いしていたらしい。

しかも、スタッフさんたちのバースデーソング付き。「ハッピーバースデーディアさわこさん~」と知らない女性の名前で呼ばれたうえ、まわりの席のお客さんたちにもあたたかい拍手をいただいてしまった。

恥ずかしいやら良心が痛むやら。あれがキッカケで、だいぶワインの酔いが回ってしまったような……。



「そうですね。俺も矢野さんから聞いてなかったので、驚きました」

「……驚いてたの?」

「はい」



こくりとはっきりうなずくけれど、思い返してみても、あのときの印南くんは普段と変わらない無表情だった気がする。

おそるべし、スーパー鉄仮面・印南 大智。
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