冷徹なカレは溺甘オオカミ
「さて、そろそろ席に行きますよ。おいしいディナーが待ってますからね」

「……印南くんって、たまにふざけてるのか本気で言ってるのか、よくわからなくなるんだけど」



レストラン内へと歩みを進めながら不機嫌顔でつぶやけば、彼は心外そうに片眉を上げる。



「とんでもない。俺はいつでも、真面目で本気です。小学校の通知表にも『大智くんは真面目で責任感があってとても立派です』って書いてありました」

「そうですか……」



その通知表、絶対続きあるでしょ。『ですがいつも無表情だとまわりから誤解されやすいので、もう少し感情豊かになってくれるとうれしいです』とか。



「柴咲さん、今失礼なこと考えてません?」

「……そんなことないわよ?」



いつかも言われた問いに内心ぎくりとしつつも、素知らぬ顔で言葉を返す。

結局わたしの返事なんてどうでもいいらしい印南くんは、それ以上追及することもなく。

そのタイミングで近づいてきたスタッフさんといくつか会話をして、席まで案内してもらった。



「俺、柴咲さんに信用ないんですね」

「……そういうことではないんだけど」

「じゃあ、具体的な例を挙げればいいですか?」



わざわざわたしの背後にまわって椅子を引いてくれながらの意味深なセリフに、思わず怪訝な表情で彼を振り仰ぐ。

そこで印南くんは長身を折り曲げて、わたしの耳元にくちびるを寄せた。



「……少なくとも。あの日俺の下で、健気に痛みをこらえながらくちびるを噛みしめていたあなたの表情は、」

「ッ、」

「とても庇護欲がかりたてられて、かわいかったですよ」



少し笑みを含んだ低いささやき声に、カッと身体中が熱くなる。

二の句が継げずわなわなと身体を震わせるわたしの両肩に後ろから手を乗せて、印南くんは「はい、Sit down.」とやたらイイ発音で言った。

そしてそのまま、力が抜けたように椅子へと腰をおろすわたし。



「……ほんっっと印南くんって、イイ性格してるわ」

「ありがとうございます」



褒めてないっつーの!というツッコミは心の中で押しとどめて。

わたしは向かいの彼と目を合わせないようにしながら、料理が運ばれてくる前になんとか頬の熱を冷まそうと必死になるのだった。
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