冷徹なカレは溺甘オオカミ
「あのケーキのおかげで、おなかパンパンです」

「ふふ、たしかにー」



言ってから、「でも、」と、わたしは夜景に目を向けながら続けた。



「あの演出、他の人のために用意されたものではあるけど……実は結構、本気でうれしかったな」



そう話すわたしの顔を、印南くんが横からじっと見つめているのがわかる。

いつものわたしなら、たぶん、こんな話はしなかったかもしれない。

だけど今は少しだけ酔っぱらっていて、クルーズ船だなんて非日常な場所にいて。

だから、こんなふうに、自然と自分の話が口からこぼれてしまっているのかも。



「わたしの誕生日、来月なんだ。だからちょっと早いプレゼントみたいで、普通にうれしかったの」

「そうなんですね。いつですか?」

「12月26日。家ではいつもクリスマスと一緒にお祝いされて、ちょっとしょっぱい思いしてたんだよねー」



苦い思い出にちょっぴりセンチメンタルになりながら、前髪をいじる。

子ども心には、やっぱり分けてやって欲しかったお祝い。

大人になった今なら仕方ないって納得できるけど、あの頃はだいぶ不満だったんだよなあ。


隣りの印南くんがこちらから視線を外して、同じように前を向いたのを視界の片隅で捉えた。



「じゃあ矢野さん、グッジョブですね。柴咲さんによろこんでいただけたので、これであの方も浮かばれます」

「いや、矢野さん生きてるからね? お世話になってる先輩になんてこと言ってんの?」
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