冷徹なカレは溺甘オオカミ
相変わらずの淡々とした口調で、印南くんはシュールなことを言う。

……ほんとにもう、思考が計り知れないな、印南くんは。


ひとつ息をついてから、わたしは横にいる人物へとまた顔を向けた。



「……印南くん。今日は、本当にありがとう」



言いきって、ぺこりと頭を下げる。

こんな、極上の夜景と食事が味わえるディナークルーズなんて。彼が誘ってくれなければ、きっと今後も経験できなかった。

今夜は純粋に楽しく、素敵な時間を過ごさせてもらえたから。だからわたしは、改めて感謝の言葉を伝えたかったのだ。


顔を上げると、印南くんは手すりに頬杖をつきながら、小さく首をかしげている。



「そんな、改まったお礼なんていいですよ。付き合ってもらったのはこちらの方です」

「でも、」

「むしろすみませんでしたね、ディナークルーズの相手があなたの好きな『イケメン御曹司』じゃなくて」



彼がそう言った瞬間、わたしは光の速さでその右頬をつまんで、自分史上1番輝く笑顔を浮かべながらぐいぐい引っぱった。



「印南くん、次にその話したら、今度はほっぺたじゃなくて二の腕の内側の痛いとこひねりあげるわよ?」

「失礼ひました。あのとき持ってた本は『俺様イケメン御曹司』でひたね」

「お黙り印南……!」



あのとき一瞬しか表紙見えなかっただろうにしっかり記憶しやがって印南このやろう……!

ほんと、わたしの乙女な趣味をこの男に見られてしまったのは一生の不覚だったわ……!!
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