冷徹なカレは溺甘オオカミ
照れ隠しにとさらに頬を引っぱる力を込めてやったら、さすがに痛かったのかわたしの左手を包むように彼の手が触れる。



「痛いです、柴咲さん」

「……じゃあ、痛そうな顔しなさいよ」



つい不満げな顔でもらせば「柴咲さん、そういうのがお好きなんですね」という意味不明な言葉が返ってきたので、「なんの話よ」とツッコんでおいた。

今日のところは素晴らしいこの夜景に免じて、彼の頬をつまんでいた指から力を抜く。

だけどもなぜか、印南くんはわたしの手を掴んだままだ。



「あの、印南くん。手……」

「柴咲さん、冷えてますね」



若干の戸惑いを含みながらつぶやいた言葉は、彼によってあっさりと阻まれた。

印南くんはそのまま、わたしの手のひらの感触を確かめるように、自分の右手の親指を這わす。

びく、と思わず肩がはねた。



「い、なみく、」

「あなたの弱いところ、俺、覚えてますよ」



まっすぐにわたしの目を射抜いたまま、左手を掴んだ彼の指が、探るような動きで手のひらを撫でる。



「耳の裏に、手のひらと、指の間。あと──……」



いつの間にか、手すりを背にして彼に覆われるような体勢になっていた。

経験値が少ないわたしは、近すぎるその距離に硬直。自由な左手を手すりにつき、印南くんがそんなわたしの首筋に顔を寄せてくる。



「……うなじも。キスしたら、すごくイイ反応してましたよね」

「……ッ、」



ふ、と彼の吐息が首筋にかかって、急激に体温が上がった気がした。

薄暗いから気づかれてはいないだろうけど、きっと今の自分は、リンゴのように赤い顔をしているに違いない。

思わず力が抜けてしまいそうな身体を叱咤し、目の前にある印南くんの胸を思いっきり押した。
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