冷徹なカレは溺甘オオカミ
「あのね、印南くん。わたしたちはほんとに付き合ってるわけではないんだから、ムードに流されてああいうことしちゃだめなのよ」



年上の威厳を保つよう、あくまで毅然とした態度で言い放つ。

対する印南くんは、何か考える素振りで顎に手をあてた。



「柴咲さんの言う『ああいうこと』とは、キスのことですか?」

「そ、そう。そういうことよ」



ためらいもなくハッキリその単語を口にされ、つい動揺しながらもうなずく。

彼はさらに思案するように一度視線を斜め上に向けて、それからわたしへとその二重の瞳を戻した。



「前に俺、『“偽彼氏”の俺に何か要望があれば善処します』って、会議室で言ったでしょう」

「……うん?」

「柴咲さんさっき、キスして欲しそうな顔していたので。だから俺も、それに精一杯応えようとしただけなんですけど」



「もしかして俺の勘違いでしたか?」なんてさらに続けて彼がのたまうから、もはや開いた口が塞がらない。


な、なにを言っているんだ、この鉄仮面男子は……!!

『キスして欲しそうな顔してた』って……!! なにそれ!!? そんなのしてないし、ていうかたとえそう見えたとしてもそれを実行に移そうとするってなにごと……!!?
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