冷徹なカレは溺甘オオカミ
思いもよらないそのタレコミに、目をまるくした。

不安で仕方ない、って。あのいつでも無表情冷静印南くんからは、信じられない感情だ。


「あー、コレ本人にバレたらめっちゃ怒られるなー」なんてもらしながらも矢野さんの顔は笑っていて、話をやめる気配はない。



「ディナークルーズの件も、俺、事前にめちゃくちゃいろいろ質問されたのよ? 服装はどんな感じがいいとか、船の乗り場まで行く道順とか……ホームページでも見て調べろっつっても、『人から直接聞く方がわかりやすいので』とか大真面目な顔で言うし」

「………」

「まあ今回の場合、“カノジョ”の柴咲さんが一緒だから、余計に失敗したくなくてカッコつけたかったんじゃない?」



からかうような笑みを口元に浮かべた矢野さんがそんなことを言うから、ドキッと心臓がはねた。


なに……なんだよ、印南 大智。

きみ、わたしといるときにそんな素振り、ひとっつも見せてなかったじゃないか。

いつもと変わらない無表情で。いつもと同じ、声のトーンで。


……でもほんとは、カッコつけてるとき、あったのかな。

いっつも、わたしばっかりが焦ってるんだと思ってたけど……実は印南くんも余裕がないときが、あったのだろうか。



「……柴咲さん、顔にやけてる」

「ッッ、」



ぼそり、耳に届いたつぶやきに、バッと勢いよく両手で頬を抑えた。

当の矢野さんはといえばそんなわたしを見て、さっきまでの無邪気な表情を今度は下世話ないやらしい笑みに変える。



「わーお。お熱いことですなあ」

「な、なんですか、矢野さん。というか別にわたし、に、にやけてなんか、」

「いや~これはこれは……うん、俺も一安心な感じだなあ」



わたしの弁解は完全にスルーし、なぜかうんうんとひとり納得しているご様子。

両頬に手をあてたまま、わけがわからず見上げていれば。そんなわたしに矢野さんは、再び意味ありげな視線を向けてくる。
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