冷徹なカレは溺甘オオカミ
「いやー、やっぱ自分の後輩にいい思いばっかりさせるのもシャクだからさ。アレは俺なりのちょっとしたイタズラだったんだよね」

「イタズラ、ですか?」

「んー、やっぱり柴咲さんは知らないか」



……さっきから、矢野さんの話していることの意味がサッパリわからない。

不覚にもそれが表情に出てしまっていたのか、わたしを見下ろす彼が今度はくすりとやわらかく微笑んだ。



「ふっふー。じゃあこれも、アイツへのイタズラの延長ってことで。俺が話したってことは印南には内緒ね」



エレベーターの上りボタンを押しながら、矢野さんはそう前置きをして話し出す。



「印南ってさ、なんかやたら要領いいっていうか、段取りいいと思わない?」

「それは……たしかに」



思い当たる節はたくさんあるので、わたしは素直に首を縦に振った。

最初の“業務命令”のときもそうだけど……今回のディナークルーズの件も、待ち合わせ時間や場所は、すべて彼がテキパキと決めてくれたのだ。

頼りになってすごいなあって、改めて印南くんに対する評価が上がる部分だけど……それが、どうかしたのかしら。


ますます、首をかしげるわたし。

対する矢野さんはエレベーターの階数表示を見上げながら、こみ上げる笑いをたえるように口元を手でおさえている。



「くくっ。あのねこれ、前に印南がいつもより酔っぱらってるときに聞き出した情報なんだけど……アイツ、不意打ちとかアドリブとか、突然のアクシデントに実はめちゃくちゃ弱いんだって。だからなんでもすっごいキチッと段取り組んで計画的にやらないと、不安で仕方ないんだってさ」

「え……」
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