冷徹なカレは溺甘オオカミ
「というか柴咲さん、バッグ落ちてますけど」

「(はっ!!)」



今度は声に出さないことに成功した。

言われてみれば、今のわたし、さっきまで持ってたはずのバッグを手にしていない。

印南くんに後ろから声かけられて驚いた拍子に、バッグまで手放すとか……どんだけビビリなんだわたし……。



「あ、ありがとう」



言いながら屈んで、黒いバッグを拾う。

口が開いていたせいで、中身もいくつか飛び出してしまっていた。

数歩こちらに近づいてきた印南くんも傍らにしゃがんで、それらを一緒に拾ってくれる。



「ごめんね、ありが──」



再度お礼を言おうと顔をあげたところで、異変に気づく。

わたしの隣りにしゃがみこむ印南くんが、床に視線を向けたままどうしてか固まっていたのだ。

なんだろう、と思って、わたしもその方向に目を向けかけたそのとき。



「……これも、柴咲さんのですか?」

「え?」

「【俺様イケメン御曹司の溺愛宣言】──」

「ッッッ!!!???」



バッと勢いよく、わたしは光の速さで彼の足元に落ちていた文庫本を奪った。

だけども、時すでに遅し。カバーを外していた表紙を見られたうえ、タイトルまでしっかり音読されている。


あああああなんてことだ……!!
まさかクールビューティーで通してる会社の後輩くんに、わたしの乙女な趣味を知られることになるなんて……!!

ハッ!! ていうかもしかして今のは、「あ、それ電車で忘れ物拾ったのよ」とかさらっと言えば回避できたパターン??!!

だけどこんな態度とっちゃったら、自分の物だって自ら暴露したようなものだよね??!!

も、もはや、逃げ場なし……!!
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