冷徹なカレは溺甘オオカミ



ぴゅうっと冷たい風が吹く。

……寒い。なんだか今日は異常に寒い。

いくらもう11月も終盤だからって、わたしが外勤のときに限ってこんなに寒くなることないじゃないか。



「うぅ……っ」



また、冷気をたっぷり含んだ北風が吹いた。

肌を刺すそれに思わず身震いした瞬間、急に鼻がむずむずしてきて、わたしはあわてて口元を両手でおさえる。



「は……っくしゅん!」

「……柴咲さん、寒そうですね」



すぐ隣りから聞こえた声にハッとし、おそるおそるそちらへ視線を向けた。

予想通り、見慣れた無表情の印南くんが、わたしを見下ろしていて。

内心『ついにやってしまった……!』と頭を抱えつつも、表面上は平静を装いながら「別に」とそっけなくつぶやいた。


今日は営業第1グループの中畑部長とわたし、それから印南くんとの3人で取引先を訪問する日だった。

用事があって直帰するという部長とは先ほど駅で別れ、今は印南くんとふたり、会社に向かって歩いているところだ。


ああもう、どうしてこんな日に限ってわたしはストールを忘れてしまったのか……!

ていうか、くしゃみ!! マイルールで『デキる美人はくしゃみとしゃっくりをしない!』って決めてたから、今までずっと会社の人の前ではしないようにめっちゃ気をつけてたのに……!! なんという不覚!!
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