冷徹なカレは溺甘オオカミ
悪びれもせずからからと笑うと、「じゃあまた後でな! メールする!」と言って梶谷はオフィスを出て行った。

きっとこの後、ビルの外にある行きつけのカフェで、のんびりコーヒーでも飲みながらわたしの仕事終わりを待つつもりなんだろう。

ガラガラと大きなキャリーバッグを引いて歩くその後ろ姿を見送って、呆れとも安堵とも言えるため息をつく。



「相変わらずでしたね、梶谷。そういえば、結局どうしてこっちに帰って来てるんですか?」

「ははっ、それ柴咲さんに言ってなかったねー。明日、友達の結婚式があるんだってさ。空港からまっすぐここに来たみたいよ」

「なんていうか……タフですよね」



矢野さんの言葉に、思わず苦笑がもれた。

とはいえ、数年来の同期との久々の再会は、素直にうれしい。

しかもこの後もうひとりの同期も交えて飲みに行けるとなれば、俄然テンションも上がるというものだ。顔には出さないけど。



「……ちょっと俺、席外します」



よし、と自分のパソコンに向き合おうとしたところで、隣りの印南くんが席を立った。

わたしの背後を通過して、出入り口の方へと向かう彼。

ちらりと見えた横顔が頭に引っかかって、気づけばわたしも、椅子から立ち上がっていた。



「ちょ、ちょっとわたしも、席外します」

「はーい、いってら~。……若いっていいねぇ」



矢野さんの最後のつぶやきは、ちゃんと耳に届かない。

オフィスを出ていく背中を追って、わたしは足早にドアをくぐり抜けた。
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