冷徹なカレは溺甘オオカミ
変なこと言ってごめんね、と謝るつもりで、うつむかせていた顔をあげた。

印南くんはなぜか口元に片手をあてて、思案するような素振りで視線を床に落としている。



「……怒ってる、とは、また少し違うかもしれません」

「え?」

「すみません、まさか表面に出ていたとは」



こちらより先に謝られてしまって、わたしはつい呆然と、その場に立ち尽くしてしまう。


……じゃあ、さっきわたしが感じた違和感は、気のせいではなかったってこと?

でもそれって結局、どうしてそんなふうになってたの?



「今まであまり経験したことがなかったので、少し、自分でも戸惑ってます。俺の問題なので、柴咲さんは気にしなくてもいいですよ」



いやきみ、全然今戸惑ってるような顔してないけど。

そうは思いつつ、突き放しているようで、それでも冷たい響きは持たない彼のセリフに、ただうなずくことしかできない。

印南くんはそのままわたしに背を向けて、ちょうど来ていたエレベーターに乗り込みどこかへ行ってしまった。



「………」



……えーと。

よくわからないけど、印南くん、通常運転?


とりあえず、いつまでもここに棒立ちしているわけにもいかないので、踵を返してオフィスへと戻る。

わたしの姿に気づいた矢野さんが、なぜか苦笑混じりに話しかけてきた。
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