冷徹なカレは溺甘オオカミ
「あーっと。柴咲さん、大丈夫そうだった?」

「えっ、なにがですか?」

「え?」

「え?」



矢野さんとの会話が噛み合わないまま、考えることを放棄したわたしはとりあえずデスクの上に溜まっていた自分宛のファックスを整理し始める。

ポケットのスマホが震えたのでディスプレイを確認すると、梶谷からのメッセージが入っていた。



【梅野、オッケー! 仕事終わったら『達磨』な!!】



……この短い文章ひとつに、ストレートな梶谷の性格がそのまま現れているようだ。

梅野は数年前に寿退社をして子どももいるから、参加できないことも多いんだけど……どうやら今回の同期会は全員集合できて、開催場所は馴染みの居酒屋に決まったらしい。

メッセージには【了解】とだけ返事をし、わたしは画面の暗くなったスマホを適当にデスクへと置く。


……なんか、さっきの印南くんの様子が、釈然としないけど。

でも、梶谷が異動して以来──1年以上ぶりの同期会は、楽しみで。

けれど、やっぱり、印南くんのことも気になって。

なんでか今さら、マフラーを貸してくれたときの、彼のちょっと笑った顔まで思い浮かんできて……。

しかもそれに付随して、あのとき感じた恥ずかしさもこみ上げてくる始末で……。



「(……っう、わああああ!)」



思わずデスクにつっぷして両手で髪をかき回したくなるのを、なんとかたえる。

わたしの脳内、こんな時期なのにまるで台風が上陸したみたいだ。いろんなことをいっぺんに考えすぎて、情報の波が大荒れ状態。



「(と、とにかく、今は目の前の仕事を終わらせる……! 集中!!)」



ふう、とひとつ息をつき、そこからはただただ無心で目前の業務をこなした。

途中、隣りの席に印南くんが戻って来たけれど……極力その姿を視界に入れないよう、ひたすら集中して仕事を捌いていく。


──そうしてわたしがオフィスを後にできたのは、梶谷に返信をしてから約1時間半後のことだった。
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