冷徹なカレは溺甘オオカミ
「あのね、印南くん。別にわたし、俺様御曹司に手ぇ出そうと思って研究してるとかじゃないから」

「そうなんですか?」



『そうなんですか?』じゃないわよコノヤロウ……。

きょとん、と目をまたたかせて、小首をかしげる印南くん。

その動作、印南くんよくやるよね。でもね、今のわたしには、全然かわいく見えないのよ……。


こめかみに右手の指先をあてて、彼から視線を逸らす。



「うん、そうなの。……まあ、あの、趣味、っていうか……」

「趣味ですか」



わたしの言葉に、神妙な顔でうなずいた。

……もうなんか、何言ってもキチンと伝わらない気がする。

取り急ぎ、1番重要なことだけを口にすることにした。



「……あのね、これ、できれば人に知られたくないの。だから印南くん、このこと、他の人には内緒にしてくれる?」



会社ではなんちゃってクールビューティーを押し通してるわたしには、『実は愛読書がゲロ甘恋愛小説』というこのスキャンダルは痛い。

そう考えて文庫本をぎゅっと胸に抱きながら訊ねれば、印南くんはじっとわたしを見据えてきて。



「それは……業務命令ですか?」

「え?」



思いがけない言葉に、しぱしぱと目をまたたかせる。


……業務じゃないし、命令でもないんだけど。

だけど、彼のこの様子だと……もしや、そう言っとけば印南くんは誰にも言わないでいてくれる?

そう思い至ったわたしは、こくりとうなずいた。
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