冷徹なカレは溺甘オオカミ
「──でさあ、柴咲」



急に梶谷に名前を呼ばれ、完全に自己暗示モードに入っていたわたしはハッとする。

顔をあげて彼に視線を向けてみると、梶谷はなんだか難しい顔をしながら両腕を組んでいて。



「な、なに?」

「だからさー、柴咲の方から、休み明けにでも一応謝っといてくれねぇ? 印南に」

「え、なんで」



反射的にそうつぶやけば、彼は「聞いてなかったのかよ」と片眉を上げる。



「さっき会社で、俺印南の目の前で柴咲といつもの調子でしゃべってただろ。アレ、やっぱまずかったかなーって」

「……あー……」



梶谷お得意の、セクハラ発言の件ね。

……でもまああんなの、どうせ……。


自分の思考に自分で悲しくなりながら、わたしはフライドポテトに箸を伸ばす。



「別に、大丈夫だよ。印南くんだし」

「は? だから、『柴咲の彼氏の印南』だから、まずいんだろ」

「へーきへーき」



ひらひらと片手を振って、底に残っていたビールをぐいっと飲み干した。

そろってきょとんとした表情をしている梶谷と梅野に、わたしはたたみかける。



「梶谷が心配してるのって、印南くんがヤキモチ妬くとか、そういうことでしょ? ……それなら絶対、大丈夫だから」



メニュー表を開きながら、キッパリ言い切った。

すぐさま食いついてきたのは、梅野だ。
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