冷徹なカレは溺甘オオカミ
当人そっちのけで、下世話な笑みを浮かべながら楽しげに会話を繰り広げる梶谷と梅野。

少し遅れて、わたしは反応する。



「……いや、ないない。そんな、印南くんが、嫉妬とか……」

「あるって。なんの根拠があって、柴咲がそんな頑なに否定すんのかは知らないけどさー、」



レモンサワーのグラスを持った右手の人差し指を、梶谷がピシッとわたしに向けた。



「たぶんおまえ、自分で思ってる以上に、彼氏に愛されてると思うよ」

「──、」



そんな、わけない。

“偽彼女”の、わたしのことなんて。

いつでも冷静なあの印南くんが、わたしと親しげに話していた梶谷に、嫉妬するなんて。


──……でも。



『印南くん……なんか、怒って、る?』


『怒ってる、とは、また少し違うかもしれません』



……──もしかして。

“もしかして”って、少しだけ自惚れたことを想像してみても、いいのだろうか。


もしかしたら、わたしと梶谷が話しているのを見て……少しだけでも、独占欲を感じてくれたのかもって。

そんな嘘みたいなことを、信じてみても、いいのだろうか。
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