冷徹なカレは溺甘オオカミ
まあたしかに、最近彼がわたしをよくからかってきたりするから……つい、ムキになって反応してしまったりして。

それを繰り返しているうち、いつの間にか、普段から繕うことをあまりしなくなっていたのかもしれない。


ある意味、印南くんのおかげで、自分は少し変わったらしい。

わたしには、それがいいことなのか悪いことなのか、よくわからないけど。

少なくとも、今目の前にいる梶谷と梅野はよろこんでくれているみたいだから……だからわたしも、ちょっとだけうれしくなる。



「……うーん。どうだろうね」



ただやっぱり素直に認めるのは悔しいので、そんなふうにつぶやきながら、水滴のついたハイボールのグラスを口に運んだ。

すると横からわたしの首にがしっと腕がまわされ、危うくグラスの中身をこぼしそうになる。



「ちょっ、梅野!」

「ハイハイ、そろそろお酒も回ってきたでしょー? つーわけで印南氏とのなれそめ話、あたしらに語ってくれる?」



赤らんだにこにこ顔でそんなことを問われ、思わず言葉を失った。

……なれそめって、言われましても。

今のわたしと印南くんの関係は“偽恋人”だから、そんな甘いものはないのだけど。

この関係に至った理由といえば、わたしの『処女もらいやがれ!』発言がキッカケではあると思う。……でもそんなこと、話せるわけないし!



「……な、ないしょ、で」



すぐそばにある梅野の顔から目を逸らしつつ、答えた。

彼女はそんなわたしの態度に都合よく勘違いしてくれたらしく、「もー! 照れちゃって!」なんて笑いながらバシバシ背中を叩いてくる。

その後、梶谷も同じように絡んで来たけれど。酔っぱらいはシラフの人間よりごまかしやすいので、わたしはなんとかやり過ごすのだった。
< 147 / 262 >

この作品をシェア

pagetop