冷徹なカレは溺甘オオカミ
「うん」

《『うん』って……そういえば今日、同期の方々と集まったんじゃなかったんですか? 今はひとりなんですか?》



彼にしてはめずらしく、さっきから質問ばかりだ。

ふふっとまた笑みをこぼして、わたしは歩みを止めないまま答える。



「同期会あったよ。さっき終わって、今はひとりで歩いて帰ってる」

《は? ひとりで歩いてるんですか? というか柴咲さん酔ってますよね? 危ないからタクシー呼んでください》

「大丈夫、あと5分くらいで着くし」

《その5分の距離で何かあったらどうするんですか》



やっぱり印南くんは、少し過保護なところがあると思う。

でも、それが全然嫌じゃない。むしろ彼に心配してもらえて、うれしいと思ってしまっている自分がいる。


……これは、まずい、なあ。



「へーきです」

《どこがですか。……じゃあとりあえず、家に着くまでは、このまま俺と通話しててください》

「……うん」



ほら、また。

今も彼のため息混じりな言葉に、ほわりと胸があたたかくなった。


きっと迷惑なはずなのに、印南くんは、わたしを拒絶しないでくれる。

そのことがたまらなくうれしくて、けれども少し、切なくなる。


……たとえば、わたしが彼の先輩じゃなくて、同い年か後輩だったら。

印南くんは今と変わらず、電話を続けてくれたのかな。

こんな時間に迷惑だって、突き放したりしないかな。
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