冷徹なカレは溺甘オオカミ
そろり、あくまでさりげなく、視線を逸らす。



「……印南くん、矢野さんと外食べに行ったんじゃなかったっけ」

「ええ、行きましたよ。ビルのすぐ近くにあるそば屋だったので、早めに帰って来れました」

「そっか……」



あのおそば屋さん、注文したものがおそろしく早く出てくることで有名なんだよな。

休み時間ギリギリに帰って来ると思っていたのに、この状況は想定外だ。


じゃあわたし戻るから、と、口を開きかけたそのとき。



「……目が、合いませんね」



ぎく。ぼそりとつぶやかれた彼の言葉に、肩が揺れる。

おそるおそる印南くんの方に視線を向けてみれば、彼はまっすぐ、わたしを見下ろしていた。



「……なんのこと?」



あくまで他意はなさそうに、素知らぬ顔で訊ねる。

すると彼は、少しだけ目を細めて。



「俺が、気づいていないとでも思ってたんですか?」



……あの、こわいです印南サン。


心の中でそう思ったのとほぼ同時、彼に左手首を掴まれて、今度は肩どころか心臓もはねた。

驚くわたしに構うことなく、そのまま印南くんが歩き出す。



「えっ、ちょっ、どこに……っ、」



混乱しつつなんとか背中に訊ねると、彼はちらりともこちらを見ないままひとこと。



「とりあえず、密室」

「!!?」
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