冷徹なカレは溺甘オオカミ
「石井さん、清田さん。お疲れさまです」

「おう、お疲れー」

「お疲れさん」



……やっぱり、声をかけてきたのは石井さんだったんだ。あと、同じシステム課の清田さん。

どうやら彼らは、壁のすぐ向こう側にいるわたしの存在には気づいていない様子だ。

つながれたままの手に視線を落としてから、小さく息をつく。


……このふたりって。前に印南くんとわたしが手を繋いでるところを目撃して、女子更衣室の前でそのことを印南くんに追及してたんだよね。

なんか……なんとなく、今回も嫌な予感。



「印南、さっきありがとなー。支店のシステムも同じように間違ってたから、すぐ直せて助かったわ」



石井さんの言葉に、「ああ、いえ」と短く答える印南くん。

……そういえばさっき、在庫システムの不具合に印南くんが気づいて、システム課の人があわてて直してたっけ。

しっかし印南くんは、他部署の人たちとも仲良しだよなあ。

でもまあとりあえず、おしゃべりするのは構わないから早くこの手を離してあわよくば逃がして欲しい……。


つながったままの手が落ちつかなくて、もぞ、と身体を動かす。

けれど次に聞こえてきた会話に、わたしは思わず硬直した。



「そういえば印南って、まだ柴咲さんと付き合ってるわけ?」
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