冷徹なカレは溺甘オオカミ
「……かわいそうですね」



ぽつりと聞こえた印南くんの言葉に、いつの間にかうつむかせていた顔をあげた。

声は石井さんと清田さんにもちゃんと届いたらしく、ふたりが反応する。



「え、なに、おまえが?」

「やっぱ印南、なんか利用されてんの?」

「違います」



妙にはっきり響いたセリフと同時に、わたしの左手を包む彼の手の力が強くなった。


……『かわいそう』って。もしかして、わたしがってこと?

別に、そんな憐れみ、いらないのに。……ああでも、彼は最初から、そうだった。

わたしが、『かわいそう』だったから。

だから印南くんは、わたしのことを──……。


そのときまた、痛いくらいに彼の手に力がこもった。



「かわいそうなのは、石井さんたちです」



予想もしなかったそのセリフに、「は?」、と壁の向こうから疑問の声があがる。

わたしだって同じ気持ちだ。思わず、印南くんの横顔を見上げる。

前を見据えた静かな表情。なにも、感情なんてうかがえない。


そして彼は、そこからさらに、とんでもない言葉を投下した。



「……かわいそうですね。柴咲さんのかわいいところを知らないなんて、本当に、かわいそうです」
< 161 / 262 >

この作品をシェア

pagetop