冷徹なカレは溺甘オオカミ
“絶句”とは、まさに今のような状況をいうのだと身をもって感じた。

印南くんの発言を聞いた瞬間、わたしは間抜けにも口を半開きにしてぽかんと彼を見つめる。

どうやら、石井さんと清田さんも同じような状況になっているらしい。壁の向こうからはなんの声も届かず、印南くんがくるりとこちらを向いたから思わず肩がはねた。

その表情をよく見ることも叶わないまま、再び引っぱられるようにして一緒に歩き出す。



「っい、いな、」

「………」



会話をする余裕もなく、たどり着いたのは階段につながる扉の前だ。

印南くんはためらいもせずにその扉を押し開け、手を引かれたわたしも彼に続いて足を踏み入れる。

ようやく立ち止まることが許されたわたしの背後で、重たい音をたてながら扉が閉まった。


手はまだ、つながったまま。



「……すみません、柴咲さん」



こちらに背を向けてそうつぶやいた印南くんは、口元を片手で覆っていて。



「もう少し、言い様がありました。今後はもっと効果的に、相手の心に訴えかけるような反論ができるよう善処します」

「………」



話してる内容も口調も、いつも通りの印南くんだけどさ。

でも、まるで子どもが迷子になるのをこわがるみたいに、ぎゅっと固く握られたままの手とか。

そのつながった手が、びっくりするくらい熱いこととか。

これってもしかして、前に矢野さんが言ってた──『突然のアクシデントに弱い』せい、だったりする?
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