冷徹なカレは溺甘オオカミ
けどさ、と、経理部の2個だか3個上の先輩社員が続ける。



「まあ、その噂、なんか納得できるよな。なんたって、あの顔だし?」

「たしかに、一度お相手願いたい顔してるわ」



わざとらしく神妙な声を出すその人たちの言葉に、どくんと心臓がはねる。

顔……そうか、やっぱり顔か。

フツー人間のわたしがただひとつ誇れるこの顔が、こんな変な噂も呼び寄せるのか。



「美人なのもそうだけど、なんか色気ある顔だよな、日本人離れしてて。ウチの地味な制服、似合ってないのがコスプレ感満載で逆にエロい!」

「はは、それ俺も思ったし! アッチのテクもすごそーだな。なんてったって、社長の愛人だし?」

「やべ、マジで1回寝てみたいわ。ま、ああいうのを彼女にするのは勘弁だけど」

「あーわかる。美人ってとこ盾にして、金とか目的のためなら簡単に男と寝そうだもんな、あの人」



財布を握りしめた手が、自然と力む。

うつむいたまま、眉間のあたりにぐっと力を込めた。



「……ッ、」



だめだ、泣くな、泣くな。

ここは会社だ。泣くようなところじゃない。こんな馬鹿げた理由で、涙を流すな。


……でも、なんで。

なんでわたしは、たいして関わったこともないような人たちから、こんなことを言われなきゃいけないんだろう。

本当は、小説の中みたいなピュアで素敵な恋愛をしてみたいと思っているのに。なんでこんな、汚いイメージをつけられなきゃいけないんだろう。

ただ、唯一自分が誇れるところを、大事にしていただけなのに。なんでこんなふうに、それすらも否定されなきゃいけないんだろう。
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