冷徹なカレは溺甘オオカミ
印南くん……あの子から、鍵、受け取ってた。

さっきのって、もしかして──……家の鍵、とか?

もしそうだとしたら、印南くんとあの子は勝手に家に上がり込むのも許されているような、気の置けない関係ってこと?

たしか前に彼は、兄弟はお兄さんがひとりだけって言ってた。だからさっきの子が実は印南くんの妹でしたとか、そんなオチは期待できない。



「………」



直接、本人に訊けばいい。

そうは思うけど、のろのろと重い足は、彼のところまで追いついてくれそうにはない。

そうこうしているうちに職場であるビルにたどり着いてしまって、わたしは思わずため息を吐いた。


そういえば、わたしって……印南くんのこと、全然知らないな。

好きな食べ物とか、出身地とか。

そんな些細なことでも、いざ自分がまったく思いつかないことに気づいて、なぜか落ち込んでしまう。


印南くんは先のエレベーターに乗れたらしく、わたしがホールで足を止めたときすでに彼の姿はなかった。


……たとえば、好きな異性のタイプとか。

もしわたしが彼に訊ねてみたりしたら、一体印南くんは、どんな反応をするんだろう。


エレベーターを待ちながら、現実逃避みたいにそんなことを考えてみる。

だけどわたしの脳裏には、先ほど見た彼と女の子が親しげに話す様子がこびりついて、離れそうになかった。
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