冷徹なカレは溺甘オオカミ
結局今朝のことが頭から消えないまま、約束の昼休みはやって来た。

ぞろぞろとデスクを離れていく人の波が落ち着くのを待ってから、わたしと印南くんもオフィスを後にする。

彼が案内してくれたお店にたどり着くまでに、いくつか言葉を交わしたけれど。どうにもわたしは心ここにあらずで、うまく会話をつなげることができない。



「ここです」



彼が立ち止まったのは、隠れ家的な佇まいのカフェだ。

レンガ造りの外壁は、その半分近くが蔦に覆われている。

ドアを開けて待ってくれる印南くんの前を通り抜けて、店内へと足を踏み入れた。



「いらっしゃいませー! 2名様ですね。奥のお席へどうぞ」



黒いカフェエプロンをつけた女性の店員さんに案内されて、店の奥にあるふたり用席に腰をおろす。



「柴咲さん、メニューどうぞ」

「あ、ありがとう」



お冷やとともに店員さんが置いて行ったメニュー表を広げて、わたしの方に向けてくれた。

……なんだか、あの日みたいだな。まああのときは、お互いひとつずつメニュー表持ってたけど。


わたしは本日のプレートランチ、印南くんはボリュームたっぷりなステーキごはんを注文。

頼んだものが運ばれてくるのを待つ間他愛ない会話をぽつぽつ交わしていたら、不意に、印南くんが声のトーンを変えた。
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