冷徹なカレは溺甘オオカミ
「ッあんなこと、きみに頼まなければ、よかった……っ」



抑えた声でつぶやいた瞬間、わたしの手首を拘束する力が緩んだ。

その隙に彼の手をすり抜けて、今度こそ、振り返ることもせずカフェを出る。

ただひたすらビルに向かって足を動かしながら、こみ上げてくる涙を、必死でぬぐった。


……あんな、『業務命令』だなんて、言うんじゃなかった。

あの言葉がなかったら、もしかしたら彼は、断ってくれていたかもしれないのに。

そしたらわたしと印南くんは、今もただの同僚でいられたのに。

わたしが彼をすきになってしまうことも、きっとなかったのに。

こんな、張り裂けそうな胸の痛みも──知らずに、済んだのに。
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