冷徹なカレは溺甘オオカミ
◇ ◇ ◇
柴咲 柊華、もうすぐ29歳。
アラサーにして芽生えた遅すぎる初恋は、相手に婚約者がいたというまさかの展開で幕を閉じました。
「柊華、いい加減うっとうしい。もう昼だぞ。そろそろベッドから出ろよ」
「うう~~」
呆れたような弟の声とともに、ぼすんとぬいぐるみを投げつけられたのが布越しに伝わる。
小さくうなりながら、わたしはまるくなっていたふとんから顔を出した。
「颯真ぁ、頭いたい……」
「そりゃー、ゆうべあんだけ飲めば二日酔いにもなるだろ」
呆れ声だとは思っていたけど、今日初めて見た弟の顔は表情までもが思いっきり呆れていた。
ズキズキ痛む頭に片手をあてながら、わたしはのそりと上半身を起こす。
……そうだ。ゆうべは金曜日なのをいいことに、お姉ちゃんと颯真を宅飲みに誘ったんだ。
お姉ちゃんは日付が変わる前に帰ったけど、颯真は最後まで付き合ってくれた。
ちなみに昨日のやけ酒の名目は、もちろんわたしの失恋だ。
「まーほら、男は星の数ほどいるし? 失恋の1回や2回で、めげんなよ柊華」
「……颯真って、女の子に振られたことあんの?」
「ねーな。振ったことしかない」
「恐ろしい子……」
力なくつぶやくわたしの前に、「ん、」と颯真の両手が差し出される。
片方は水の入ったコップ、もう片方は錠剤の胃腸薬。
我が弟ながら気のきく子だわー、なんて思いつつ、ありがたくそれを受け取った。