冷徹なカレは溺甘オオカミ
『ッあんなこと、きみに頼まなければ、よかった……っ』



あれからもう、2週間が経つ。

あの一件から同僚以上の距離に近づくことなんてないし、当然、一緒に過ごしていた昼休みのひとときも完全になくなった。

だというのにわたしは、彼に話しかけられるたびに、いちいち胸を高鳴らせていて。

それがたとえ、仕事上の関わりでしかなくても。仕事のことでしか、話す機会はないとわかっていても。

未だにわたしは未練がましく、印南くんの声や存在そのものに、心を揺さぶられてしまっていた。


救いなのは、あれ以来彼も、前のようなただの同僚として接してくれているということだ。

……よかった。これでわたしはもう、うぬぼれた期待をしなくて済む。

ときおり、彼から何か言いたげな視線を感じるような気がするけれど──きっとそれも、ただの妄想だ。

彼と関わり合ううちに芽生えてしまった恋は、またこうして必要最低限でしか関わらないようにしていれば、いつか枯れて消えるだろう。

それが、いつになるかはわからない。けれどもそうしなければならないんだと、わたしは強く、自分の心に言い聞かせていた。



「柴咲さんこれ、メーカーの年末年始休暇のお知らせです」

「ありがとう、森さん」



メールで来たPDFをプリントしたと思われる紙を、わざわざ森さんが手渡してくれる。

デスク横に立つ森さんを見上げてお礼を言えば、「いいえ」と微笑んだ彼女は何かに気づいて目をまたたかせた。
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