冷徹なカレは溺甘オオカミ
気を抜けば今にも浮かんできそうな涙を必死でこらえながら、駅までの道を足早に進んだ。

オフィスを出たときに考えていたプランは、すっかり頭の中から抜け落ちていて。ただひたすら、一刻も早く自宅に帰ろうと自分を急かす。


自宅の最寄り駅に着いて、誰も追ってきたりしていないことはわかっているのに、それでもわたしは早足で歩いた。

ようやくマンションまでたどり着いたとき、階段の手前にある集合ポストが目に入る。



「………」



少しの逡巡ののち、わたしはバッグからいつも持ち歩いている手帳を取り出した。

後ろの方にあるメモ用紙を開き、ちょっとだけ考えてから、そこにボールペンを走らせる。



【もう、バラは結構です】

【困りますので、やめてください】



こちらの名前を書くべきか迷って、結局書かかずに手紙はその2行だけで終わらせた。

そのページを手帳から破り取り、自分の部屋番号の郵便受けを開けて中に置く。



「(……前みたいに、これで、やめてくれればいいんだけど)」



若干の不安を残したまま、そっと郵便受けの扉を閉じる。

……もう、今日は疲れた。ごはんは適当に済ませて、早く眠ってしまいたい。

バッグを肩にかけ直しながら、わたしは重い足取りで階段をのぼったのだった。
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