冷徹なカレは溺甘オオカミ


◇ ◇ ◇


「なんか柴咲さん、今日顔色悪くない?」



矢野さんにそんな言葉をかけられたのは、昼前のオフィスでのこと。

まじまじとわたしの顔を見つめてくる視線から逃げるように、曖昧に笑ってみせる。



「そうですか? まあちょっと、風邪気味で」

「クリスマスだっつーのに風邪かあ~? お大事にな」



軽ーい調子で言って、矢野さんはコピー機の方へと足を向けた。

それを横目で確認し、わたしはひそかにため息を吐く。


……今のわたしの顔色が悪いと言うのなら、それはおそらく、今日の朝の出来事が原因だ。

今朝出勤のためにマンションの部屋を出たわたしは、階段を降りきったところにある集合ポストの前で一度足を止めた。


……昨日の今日だし、期待はしてないけど。

でも、一応、念のため。


そんなことを頭の中で考えて、自分の部屋番号【203】の郵便受けを開ける。

銀色の箱の中には、ぽつん、と紙きれが1枚あるだけ。


──ああ、やっぱり。そんなにすぐ、反応なんてないよね。

その紙を昨日自分が置いたものだと思ったわたしは、落胆半分安心半分な気持ちで、郵便受けを閉めようと手を伸ばしかけて。

だけどその手が届く前に、びくりと動きを止めた。

郵便受けの中にあるのは、たしかに昨日、わたしが手帳から破った紙きれ。

そこに書かれている文字が、自分の書いたものと、違っていたのだ。
< 212 / 262 >

この作品をシェア

pagetop