冷徹なカレは溺甘オオカミ
「ひ……っ」



小さな悲鳴と同時に、持っていた鍵とバッグを取り落とした。

凝視する先、銀色の鍵穴のまわりには、細かな傷がいくつも入っている。

今朝家を出たときには、なかったそれ。その傷がピッキング──鍵をこじ開けようとした跡だと気づいたわたしは、両手で口元をおさえながら後ずさりした。


だめだ、もう、だめだ。

ガクガクと、全身の震えが止まらない。鍵を開けて、家の中の状況を確認する勇気もない。


なんとか立っていた足の力が抜け、冷たい床に座り込んだ。

わたしはこわくてたまらなくて、口元に手をやったままぎゅっと固く目をつぶった。


ああ、こんなの、全部夢ならいいのに。

目を開けたら朝で、ベッドの中で。ただの、悪い夢だったならいいのに。


閉ざされた真っ暗な世界に、階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。

びくりと大きく肩を震わせたわたしは、同時に目を見開いて。強い恐怖心を抱えながら、階段の方向を凝視する。


そして、現れたのは。



「柴咲さん!」

「え……いなみ、くん……」



肩で息をした印南くんが、階段をのぼりきってこちらへと駆けて来る。

わたしの前までやって来た彼はそのまま自分のバッグを手放すと床にひざをついて、強く両肩を掴んできた。
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