冷徹なカレは溺甘オオカミ
そこから、約数十メートル。

わざと路地を曲がったりしたから、もう同僚たちの姿は見えない。

わたしはふらりと足を止めて、その場にしゃがみこんだ。



「うぅ……目がまわる……」



ストッキングに包まれたひざに顔をうずめながら、小さく呻いた。

きもち、悪くはないけど……ふらふらして、思考がぼやける。

この感じ、いつぶりだろう。久々に、こんなになるまで飲んだ。
もちろん、会社の飲み会では初めてだ。


同僚たちにはこんな姿を見せたくなくて、とっとと抜けて来ちゃったけど……気づかれて、ないよね?

べろんべろんに酔っ払ってても、きっちり美人風な振る舞いを意識してる自分。我ながらアッパレだわ。


歩道のはしっこにしゃがみこんでうんうん唸っていると、背後から足音が聞こえた。

はいはい、酔っ払いなんて放っておいて先行ってくださいよー。
すぐ脇の道路には定期的に車の通りもあるし、変質者ってことはないでしょう。


だけどその足音、一旦わたしを追い抜いたかと思えば、くるりと方向転換して。

なぜかそのまま、わたしの目の前でぴたりと止まったのだ。


え、もしかして、安否確認のために立ち止まった?

うわー、別に気にしないでくれていいのにな。ちょっと落ちついたらすぐにタクシーで帰りますよ!


革靴とスーツの足元が見えて若干混乱していると、すぐに声が降ってきた。



「どうしたんですか、柴咲さん」



……ん? 『柴咲さん』?

わたしの名前を知ってる、しかも聞いたことのある低い声。

そっと、うつむいていた顔をあげた。
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