冷徹なカレは溺甘オオカミ
いまだに颯真から返信がないうえ、お姉ちゃんは箱根だ。

他に行くところなんてないし、今日はこのまま、ホテルにでも泊まろうかな。



「……ところで、この後のことなんですけど」



頭上から降ってきた声に、わたしは思考をやめて顔を上げる。

外灯に照らされた印南くんの横顔は、思わず息を止めてしまうほど綺麗だ。

そんなふうに見とれていたら、目の前の彼は、淡々ととんでもない爆弾を落とした。



「とりあえずこの後タクシーを呼んで、まず柴咲さんの家に寄ります。で、必要なものだけ持ったら、今日は俺の家に泊まってもらいますから」

「………はい?」



あまりにも予想外のセリフすぎて、だいぶ反応が遅れてしまった。

ええっと、印南くん今、なんて言った? 『俺の家に泊まってもらいますから』とか言った?


ようやく思考が追いついたわたしは、思わず足を止めてぶんぶん首を横に振る。



「い、いいよ、そこまでしてくれなくて」

「でも柴咲さん、あの家に帰りたくないでしょう?」



まさにその通りなので、とっさに反論できず押し黙ってしまった。

……いや、黙ってる場合じゃない。

こんな夜更けに、わたしが印南くんの家に行くだなんて。そんなことが許されない理由が、ちゃんとあるじゃないか。
< 224 / 262 >

この作品をシェア

pagetop