冷徹なカレは溺甘オオカミ
いつもは無表情なくせに、心配そうな顔。

わたしはまた苦しくなって、だけどそれを隠すように、首を横に振る。



「だい、じょうぶ……」

「本当に?」



言いながら彼は、わたしの隣りに座った。

ふたり掛けの、あまり大きくないソファーだ。必然的に距離が近くなって、ますます心臓が高鳴ってしまう。


……やだな。こんなふうに、意識したくないのに。

目が合わないよう、視線を床に落とす。



「ッ、」



と、そこで前触れなく、ひざに置いた自分の手にそっと大きな手が重ねられた。

その手の持ち主なんか、ひとりしかいない。驚いて顔を上げたわたしの視界いっぱいに、印南くんの端整な無表情が映った。



「柊華さん」



今度こそ、心臓が壊れてしまうんじゃないかと思った。

一気に頬が熱くなって、情けなくも手が震えて。彼の声で紡がれる自分の名前は、それくらいの破壊力がある。

そして久々に聞いたその呼び名のせいで、今この瞬間、一気にあの夜に引き戻されたような感覚がした。



「い、なみ、くん」

「柊華さん、俺今から、すごくうぬぼれたことを言います。もし違ってたら思いっきり引っぱたいてもいいから、本当だったときも、ちゃんと正直に答えてください」



わたしの手を握る力が、強くなる。

視線を逸らせないでいるわたしを見つめたまま、彼は言った。



「柊華さん──俺のこと、すきですよね?」
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