冷徹なカレは溺甘オオカミ
彼のセリフに、そのときのことを思い出した。

偶然休憩しに行ったら自分の噂話が聞こえてきて、出るに出られず観葉植物の影に隠れていたこと。

あのとき大智くん、実は近くにいたの?



「あの日までずっと、柊華さんは自分の噂話なんて気にもしていないんだと思ってました。飲み会なんかで嫌な感じに絡まれても、いつも涼しい顔でさらっと流してたし」

「………」

「でも、違った。あなたは心ない噂にいつも傷ついて、それでも誰にも知られないように隠しながら、いつも自分を強く見せてたんだって、ようやく気づいたんです」



とくんとくんと、自分の鼓動が期待に脈打っているのがわかる。

頬を撫でる彼の手があたたかくて、また泣きそうだ。



「そんなあなたを、守りたいと思った。1番近くで涙を拭ってやれる存在になりたいと、強く思ったんです。たぶん俺は、いつも気丈に振舞って強く見せている“柴咲さん”じゃなくて……あのとき必死で涙をこらえていた本当のあなたに、落ちたんだ」

「──、」



ぼろ、と、またみっともないくらい涙があふれてくる。

ああ、なんてことだ。わたしの弱さや平凡さは、最初から全部このひとに知られていたのだ。

それでも、彼はわたしを選んでくれた。選んで、そしてわたしにも、恋の種を植え付けた。



「あの日の“業務命令”は、まさに願ったり叶ったりだったんですよ。あなたが男慣れしていない分、こっちが本気だと悟られたら引かれると思ったので、ずっとあなたの前ではがっついて見えないよう余裕ぶっていましたが……」



そこで彼は言葉を切って、わたしの涙を親指で拭う。



「……本当はいつも、どうすれば俺のことをすきになってくれるかって、必死に考えてた」
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