冷徹なカレは溺甘オオカミ
………あったかいな。印南くんの、スーツ越しの体温。

アルコールのせいで火照っていると思っていたけど、10月の夜の空気で意外と身体は冷えていたらしい。

その温度の心地良さに、気を抜けばうとうとと目を閉じてしまいそうだ。



「柴咲さん、寝ちゃだめですよ。今タクシー呼びますから」

「うん……」



スマホを取り出しながらの彼の言葉に、こくん、とうなずく。

頭の中がふわふわしていて、もはや“デキる女風”を取り繕うこともできなかった。


そういえば、男の人とこんなにくっつくの、いつぶりだろう。

ん? あれ? 大人になってからは、初めてかなあ。中学のときのフォークダンスは、カウントされないよねぇ。

そんなふうに考えながら、どうやら今のわたしはかなり感覚が鈍くなっているらしい。

アルコールのせいか、それともこの距離に無意識にときめいてしまっているのか。
どきんどきんと高鳴っている鼓動すらも、なんだか心地良いものに感じてしまう。


わたしの頭のすぐそばで、印南くんがタクシー会社に電話している。

1分も経たずに話は済んだらしく、耳元からスマホを離してこちらへ視線を向けた。



「タクシー、5分くらいで来るそうです」

「……ありがとう」

「寝ちゃだめですよ」

「うん……」



印南くんの言葉、ちゃんと聞こえて理解もしているけど。
どうにも頭がぼんやりして、舌足らずになってしまう。

さっきと同じようなやり取りをした後、ふっと、彼が小さく息をついた。



「めずらしいですね、柴咲さんがこんなふうに酔っ払ってるの。いつもは鼻の下伸ばしまくった上司とか先輩のセクハラまがいの戯言をさらっと流しながらセーブして飲んでる感じだったのに」

「………」



もしかして印南くん、実は結構毒舌なんだろうか。

ふと思うけど、アルコールが邪魔してそれ以上深く考えられない。

淡々と話す彼の横顔を、ちらりと見上げた。
< 24 / 262 >

この作品をシェア

pagetop