冷徹なカレは溺甘オオカミ
「わたし、そんなにひどい飲み方してた?」

「ひどいというか。まあ、今日は飲む量多いなとは思ってましたけど」



前を向いたまま、あっさり彼はそう話す。

……印南くんって、まわりのことよく見てるんだなあ。

うーん、というか、まつ毛長いなあ。

あごのラインがシャープで、鼻筋が通ってて。

綺麗な顔、してるなあ。


ぼーっとその横顔をガン見していると、さすがに不躾な視線に気がついたのだろうか。

ふと彼がこちらを向いたから、心臓が大きく鳴った。


うわ、うわ、どうしよう。

なんで見てたかって訊かれても、言い訳なんて思いつかない。

だって、そこに印南くんの顔があったから。だから、つい、見つめてしまった。

あ、もしかして、気味悪がられちゃった?


じっとわたしと視線を合わせたまま、その目もとが、少しだけ細められる。



「……もしかして。何か、嫌なことでもあったんですか?」

「──、」



……びっくり、した。

印南くんって、こんな声も、出せるんだ。

顔は、普段通りの無表情なのに……いつもの堅い口調じゃなくて、もっとやわらかくてやさしくて、どこか甘さを含んでいて。

なんだか、思わずなんでも聞いてもらいたくなってしまうような……そんな、声。

こくりと、唾を飲み込む。
< 25 / 262 >

この作品をシェア

pagetop