冷徹なカレは溺甘オオカミ
「……あ、来ましたね」



すぐ目の前の路肩に、1台のタクシーがハザードを出して停車した。

どうやら、印南くんが呼んだタクシーだったようだ。
ひとりごとのようにつぶやいて、彼は立ち上がる。


控えめにわたしの肩に触れて支えながら、タクシーの前に連れていってくれた。

先にわたしを降ろしてくれるつもりなのか、自動で開いたドアの向こうへ印南くんが乗り込む。

その後で、わたしものろのろと後部座席に身体をすべらせた。



「柴咲さん、住所を」



やっぱり、わたしの家が先かー。

彼に促されて自分の住所をドライバーさんに伝えれば、タクシーは軽やかに走り出す。



「眠かったら、俺の肩に寄りかかってていいですから」

「うん……」



その申し出に素直にうなずいて、こて、と頭を印南くんの左肩に乗せた。

これも、アルコールが入っていない状態だったら絶対拒否してただろうなーと思いながら、そっと目を閉じる。


……やさしいな、印南くん。

それにこんなに話しやすい感じの人だったなんて、思わなかった。

わたし、会社ではボロが出ないようにプライベートな会話とかあまりしないようにしてるからなあ。印南くんに限ったことじゃなく。

でもきっと、印南くんのコレは、ただのやさしさとはまたちょっと違うんだと思う。

……たぶん彼は、年上とか先輩とか、そういう人にはすごく従順なんだろうな。

ほら、今朝は『業務命令』なんて言ってたし。

もしかしたら学生のときに、部活とかものすごく上下関係が厳しかったのかも。
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