冷徹なカレは溺甘オオカミ
──……彼氏、5人って。

そんな……そんなの……。



「そんなわけ、あるかーい!!」



びくっと、印南くんの肩がはねた。
そして、タクシードライバーさんも急ブレーキを踏みかけた。

突然大きな声を出したわたしに、印南くんがようやく視線を寄こす。



「柴咲さん?」

「彼氏5人って、なにそれ?! そんなんできるほど器用じゃないし! ていうかそんな不誠実な人間に見えるのかわたしは!」



寄りかかっていた肩から頭を起こして、印南くんの胸ぐらに両手で掴みかかる。

わたしにぐらぐらと揺さぶられながら、彼が小さく首をかしげた。



「不誠実というか……まあ、そのくらい男がいてもおかしくないような素晴らしい容姿ということでしょうね。柴咲さんは美人だって、みなさん言ってますし」

「そんなとこでこの派手な見た目引き合いに出されてもうれしくないっつーの! よく『美人は得だよね』なんて言う人いるけど、嫌な思いすることも実は結構あるからね?! 同じクラスの男子が放課後こっそりわたしのリコーダー舐めてたとか、マンションのポストに差出人不明のバラが入ってたりとか!」

「それはドン引きですね」



あくまで無表情のまま、印南くんがうなずく。

相手がおとなしくしているのをいいことに、ヒートアップしているわたしはさらに続けた。



「愛人ってなに! キープってなに! こちとら生まれてこの方28年間彼氏なんてものいないっつーーの!!」

「そうなんですか」

「再来月29歳になるけど、いまだに経験ナシの処女だっつーーの!!」
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