冷徹なカレは溺甘オオカミ


◇ ◇ ◇


「おはようございます、柴咲さん!」

「おはよう」




エレベーターを降りた直後、すれ違った後輩の女の子に挨拶をする。

コツコツとパンプスのヒールを鳴らしながら、わたしは始業時間30分前にオフィスのドアをくぐり抜けた。


制服に着替えて更衣室からオフィスに戻ると、コピー機のそばで立ち話をしているふたり組の姿が目に入る。

そのふたりとは、同じ営業第1グループの矢野さんと──印南くん、で。

見慣れた無表情を確認した瞬間、ぐ、と、人知れず両手のこぶしを握りしめた。



「あ、はよーす、柴咲さん」

「おはようございます」



わたしに気づいた矢野さんと印南くんが、ふたり揃って挨拶をしてくる。

右耳のピアスに触れながら、わたしは小さく微笑んだ。



「……おはようございます。矢野さん、印南くん」

「それと、金曜日はお疲れ~」

「柴咲さん、あの後大丈夫でしたか?」



矢野さんの軽い言葉の後、本当に気にかけてくれているのかよくわからない声音で、印南くんが訊ねてくる。

「大丈夫よ」、と笑みを浮かべたその顔のまま、印南くんにまっすぐ視線を向ける。



「ごめんね印南くん、今ちょっと時間いい?」

「はい」



何のためらいもなく返事をした彼は、矢野さんに軽く会釈した。

そのまま歩きだしたわたしの斜め後ろに、印南くんもついてくる。
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