冷徹なカレは溺甘オオカミ
そんなこんなでこの土日、悩み通しであまり眠ることもできなかった。

印南くんは口が堅そうだから、言いふらされるかもって心配はあまりしなかったけど……それでも、彼は同じ職場の後輩。

他の人はわからなくたって、関わることが多い印南くんがわたしの秘密を知っているという事実だけで、会社でうまくやっていく自信を失ってしまったわたし。

どうしよう、どうしよう。

もう、あのキャラを作れない。だって本当のわたしのことを、知っている人が近くにいるから。


……本当のわたし。アラサーだけど処女で、まったく男慣れもしてなくて。

じゃあ──……じゃあ。

もしその“本当のわたし”を変えることができたら、もっと自分に自信が持てる?



「激しい頭痛と吐き気に耐えながら、考えたの。どうしてわたしは今、こんなに苦しい思いをしてるんだろうって。……それで、わかったの。なぜならそれは、わたしがバージンだから!」

「単純に飲み過ぎたせいってことでいいんじゃないですかね」



あっさりツッコんで、印南くんがため息を吐く。

めずらしく、どこかげんなりしているようにも見える顔で、わたしを見下ろした。



「……俺、名古屋支店からこっちに異動するとき、『本社の柴咲 柊華に食われないように気をつけろ』ってまわりから言われて来たんですけど」

「わたしを食べて? 印南くん」

「……頭痛がする……」



表情筋が死んでるんじゃないかってくらいいつも無表情で冷静な印南くんにここまで言わしめるわたし、すごいわー。

ていうか印南くん、やっぱりちょっと毒舌?

イケメンで仕事デキて無表情で毒舌って、キャラ立ちすぎじゃない??


今の自分が、悩みすぎでどっかのネジが吹っ飛んでおかしくなってしまっているということは、ちゃんとわかってる。

だけどなんかもう、自分で思っている以上に精神状態が追いつめられちゃってるってことも、なんとなくわかってるの。
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