冷徹なカレは溺甘オオカミ
だったらもう、印南くんに秘密を知られちゃったことは、チャンスだと思うしかないじゃない。

いや、知られちゃったというか、酔った勢いで自分から暴露したんですけど。



「……なんで、俺なんですか」



相変わらず至近距離にいるわたしから顔を逸らすようにしながら、印南くんがつぶやく。

わたしはにっこり、笑ってみせた。



「きみはわたしの事情を知ってしまった。故にきみは、わたしに協力しなければならない」

「とんだジャイアンですね」



おーよ、望むところよ、ジャイアン!

続けて、「本気ですか」と彼が言うから、わたしはキリッとした顔を作ってうなずいた。



「本気も本気、超本気よ」

「……目ぇ据わってますけど」

「わたしの決意の表れよ」



だから諦めなさい、という意味を込めてネクタイの結び目を指で弾けば、再度印南くんはため息をついて。



「こんなに威圧感のあるベッドへのお誘いは、初めてです。……というか柴咲さんって、会社ではかなりキャラ作ってたんですね」



その言葉に、ズキンと胸が痛む。

……やっぱり印南くんも、“デキる女風柴咲 柊華”の方が、よかったんだろうか。

悲しみを振りきるように、わざとくちびるをとがらせて彼を睨んだ。



「わ、悪い?」

「いえ、そうは言ってないです」



即答して、彼がじっとこちらを見つめてくる。

予想外の反応に、思わず怯んでしまったわたし。
ネクタイを掴むわたしの手に、彼が自分のそれを重ねた。

いきなり印南くんの方から触れられて、ドキッと心臓がはねる。
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